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「月が綺麗ですね。」

『現れて早々何それ。』

「綺麗な女性の隣の席に座ったら、そう言うようにしていまして。」

『コトバの意味わかって使ってるのかしら？』

「まあ一応は把握しているつもりですが。」

『それ、多用してると後が面倒よ。』

「もう言わないようにしておきましょう...今日のおすすめは何ですか？」

『それがいいと思う。...というか、今日は曇っていて月なんて見えやしないし。』

「じゃあ月が見える時だけとかどうでしょう。...マンハッタンお願いします。」

『話聞いてた？』

「使ってみたくなりませんか、詩的な表現みたいな感じのコトバ。」

『使うにしてももっと他の文章あったと思うけど。』

「うーん、そうですかね。」

『そうね。というか過去に他の女性にもそういうこと言ってたんでしょ？』

「いや、今日が初めてですよ。」

『わたしは実験台にされたワケね。』

「実験なんてそんな。結構勇気出したんですよこれでも。」

『だからと言っていきなり月が綺麗ですねは流石にどうかと思うけど。』

「何か開口一番で格好良さ気な事を言おうと思って考えた結果がそれでしたもので。」

『私だって普通に声かけられてそれから徐々に関係持つなら色々考えたわよ。』

「考えてくださったのですね。」

『もしかして、そういう願望があったり？』

「それは確かに、ありますけど...。」

『欲求に素直な人なのね。素直過ぎるけど。』

「よく言われます。」

『入れ違いになっちゃうけど、時間だしそろそろ失礼するわね。』

「あの、じゃあ、もう言わないって決めましたし、最後に一回だけでも...」

『空を見てごらんなさい。』

「はは、....運の尽きですね。」