お題バトン 「マジで疲れたこと」

形有るものはいずれ壊れる

そんな事分かってはいるものの、そのタイミングがあまりに酷いと困惑させられてしまう。

時は12月中旬、知人に頼まれた暇つぶしのタスクの納期も近づき、デスマーチ期間に差し掛かったころのこと。帰宅していつものようにパソコンを立ち上げると何かがおかしい。電源は確かに入ったのだが一向にメーカーロゴが表示されず暗いモニターが存在するだけの状態が続いている。一瞬嫌な予感が頭をよぎったが信じたく無かったので、ただひたすら電源を入れては切りを繰り替えしたのだが結果は同じで暗いモニターに電源が入るだけだった。

さすがに諦めたのでgoogleで解決法を調べたところ、どうやらマザーボードに入っているボタン電池の残量が切れてしまったことが原因のため、ボタン電池の買い替えをすればいいことが分かったのだが、当時使用していたパソコンは画面一体型であったためマザーボード全体をむき出しにするまで分解をすることが難しい(不器用かつ知識・技術がなければ壊しかねない)という新たな問題点が浮かび上がってしまう。

納期は目前なのにパソコンが使えなくてはもはや為す術がなく絶望しかけたが、元々この画面一体型パソコン自体が経年劣化で動作が酷くなっていて、いつか買い換えたいと考えていたこともあり、今こそ絶好のタイミングなのかもしれないと覚悟を決めて「パソコンの買い替え」をする決断をした。そうと決まれば早速秋葉原へ移動する。パソコンなら秋葉原という安直な考えだったと思うが、混乱してた当時では秋葉原にすがることしか考えられなかったのだ。

秋葉原へ到着すると、ジャンク通り付近にある某PCショップへと向かった。事前に知人に相談したら「最近のだと無理に自作PCやるよりも完成品をスペック見て買った方が良い」とのことだったので、自作PCに憧れは有ったが諦めて完成品を買うこととした。

PCショップで持ち帰り可能のコーナーを眺めていると、良さそうなパソコンが2つほど目につく。

一つはCore i7(少し前) / GTX1070 / SSD128GB で十数万する物。

もう一つはCore i7(新しめ) / GTX1080 / SSD256GB で二十万する物。

趣味の関係上ゲーミングPCとしても戦えるパソコンが欲しかったのだ。どちらにするべきか悩む。が、性能が多少似ているし、元々予算を十万程度で考えていたため、前者を購入する事を決意し店員を呼ぶ。店員に購入の旨を伝えると了承しフロアからダンボール箱を探そうとするが、しばらくすると店員の様子がおかしくなってきている事に気づく。フロア中を駆け、裏側へ潜って数分後、店員から在庫切れとの知らせを受ける。新たなる問題の発生だった。

折角秋葉原まで出てきて良いパソコンにもめぐり逢えたのに、またパソコンを探す旅にでなければならない。心の中の何かが濁り出しそうになる。しかし「人生に関わる買い物で後悔することをするな」という母からの教えを思い出し、節約精神で中途半端なスペックの物を買うのなら(買えなかったが)、もう数万出してでも一番良い物を買おうじゃないかと考え、二十万を支払って売り場内で最もスペックが高い後者のパソコンを購入する覚悟を決めた。今思うと営業戦略に乗せられてしまっただけなのではないかと疑えるが、当時はそんな余裕も無かったのだ。

商談窓口で契約内容の確認などを済ませると決済処理のフェーズへ進行したため、クレジットカードを差し出す。高額な買い物をした際に「カードで」とドヤ顔で支払うことが将来の夢の一つであったため、長年の夢がかなった嬉しさに浸っていたものの、その思いも決済マシンからのアラートでかき消されることとなる。

「あー、利用上限超えちゃってますね。」

パソコンの故障から購入に至るまで様々な妨害を受けたのだが、ここに来て究極の妨害を受けてしまった。窓口に電話することで一時的に利用上限を引き上げる処理が可能と知ったため至急電話を試みるも既に営業終了の時刻を過ぎており、その方法では対処ができなかった。複数枚のクレジットカードを使う事もできると教わっても複数枚も所持しておらず、銀行のカードも決済には使えなかった。

そうすれば残る手段は現金払いしか無い。店員に許可を貰い近所のコンビニへ走って少ない残高をすべて引き下ろす。しかし残り残高は16万円であり、現金ですべて払いきれるわけでは無くなってしまっていた。店舗にもどり事情を説明すると、カードと現金払いを合わせれば手続き可能との事だったので、その方針でお願いすることにしたが、ここで16万円をすべて払い、残りの数万円をカードで払った際にカード側が利用金額オーバーのアラートを出したら万事休す、一巻の終わりである。

暗証番号を入力して必死に祈りを捧げる。

「あ、通りましたよ これで決済完了です。」

体中の全ての力が抜けたと思う。もはや笑みを浮かべて店員に応えることすらも満足に行かなかったかもしれない。

さて、これから最後の課題が訪れる。このパソコンはとても大きく、とても重かった。なので宅配サービスを利用することができるそうだが、納期は目前で一刻を争う状態に有る中で宅配による空白の期間を作るわけには行かなかった。そこでこの大荷物を秋葉原から遠い自宅まで運ぶ選択をした。店員には心配されたが事態が事態なので自分で運ぶしかなかったのだ。

その英断も店から出て2分後に後悔に変わってしまったことは言うまでもない。電車から降り、自宅へ帰るまでの距離は少し長く、その道をパソコンを抱えて歩いたときなどは数分ごとに体がうめき声を上げ、とても辛かった。しかし、新しいパソコンのため、納期のため、なんとか家まで持ち帰ることができた。

後日、筋肉痛に苦しみながらも納期までに完遂することができた。新しいパソコンも手に入り、幸せだったのだ。

多分。